前回、実行力を上げるための人の集め方について解説し、目的のために本当は不要な条件を排除するだけで、人材難という先入観に囚われなくて済むことを説明した。逆に言うと、不要な制約条件を外すことで「人がいない」「できない」というジレンマや言い訳を回避できる。少し大げさな言い方だが、大企業と遜色ない実行力を手にすることも可能だ。
実行力のあるチームの在り方:時間も場所も、人も契約も、社内外の境界線をなくす
ただ、人が増えると同時に、チーム・組織づくりが難しくなる。そこで今回は、多様な働き方をするさまざまな人で、チームを機能させたり、チームのポテンシャルを開花させたりするためのTIPSを解説したい。
コロナ禍でのマネジメント手法について話す前に、そもそもマネジメントとはなんだろうか。辞書によると、マネジメントは「管理する」であり、それを担う人をマネージャーと呼び「管理者」と訳されることが多いが、筆者は、時代の変化とともに、マネジメント=管理ではなく、変貌と遂げていくべきと考えている。
古いマネジメントスタイルから順に「監視」「管理」「活用」「開放」へ変化しているものととらえている。監視と管理についてはもはやご法度の時代になったが、活用さえも通用しづらくなりつつあるだろう。それについて、以下に解説していく。
監視と管理は、ひと昔前までは通用していた。同じことを早く正確にできる人ほど優秀とされていた時代は、人間の行動を監視・管理し、基準から外れないように全体を統制することこそ、優秀人材の量産ができた。企業がこぞって偏差値の高い大学の卒業生を確保したのも、確率論的に大量生産を効率化しやすかったからだ。まれに現れる出る杭は打ち続ければよく、それによって天才や個性は消えていったが、その時代はそれが好都合だった。
ところがテクノロジーの進化によりロボットが登場した今、大量スピード生産において、人間がロボットに勝ることは不可能となった。その差は広がる一方で、今後、監視と管理のマネジメントという機能を取り戻すことはないだろう。
駅構内にある小型売店をイメージしてほしい。以前は、多数の商品の値段を間違いなく記憶していた店員は、販売作業を正確に早くできるため重宝されていた。ところがバーコードリーダーが登場したことで、記憶力の価値は著しく低下した。極端な話、その日、その時間に、店舗に誰かがいればいい。さらにAmazon GOのような店舗が普及すれば、誰もいなくてよくなるだろう。同じことを早く正確にやることにおいて、生身の人間はこれからどんどん不要になっていく。
そこで言われるようになってきたのが「活用」である。ロボット型人間の大量生産ではなく、適材適所を実現しようとしている発想。それ自体は悪くないのだが、多くのケースにおいて、あくまで監視と管理下における活用でしかないのが残念だと感じている。
上司が部下をマネジメントしているシーンを例にしよう。上司が「おまえ、すごいじゃないか、できるようになったな!」という言葉を発することがあるとする。上司は部下のモチベーションを上げていると思い込めているし、部下は褒められているので嬉しい気持ちになり、もっと頑張ろうと感じるだろう。一見何も問題がないようにみえるのだが、筆者は警笛を鳴らしたい。
部下は、上司のコピーになる道を辿っているかもしれないのだ。上司が部下を褒めるのは、自分の経験や知識の範囲内に過ぎない。範囲外のことは具体的に褒めることができないからだ。ただそれは、つまるところ、自分の分身を育てていると言っても過言ではない。
しつこいが前述したように、同じことを早く正確にできる人材が優秀な時代は終わった。大量生産ほど無意味になっていく時代において、コピーを生み出す可能性が否めない「活用」は、ある日突然、個性的なイノベーションによってお役御免になるかもしれない。
マネジメントやチームビルディングは、次のフェーズに向かうときが来ている。
筆者が考えるこれからのマネジメントは「開放」であるが、それはどういうことか。一言で言うと「手段の自由化」だ。
これらをすべて自由にさせる。
時間の管理はしない。働く場所の指定もしない。どのようなやり方をするかも指示しない。すべての手段を、その人に任せる。
上司からみると「何をしているのか」を理解できないケースもあるかもしれないが、部下から相談があるまでは見守り続ける。「ちゃんと進んでいるのか不安を感じる」かもしれないが、何か表面化しない限り黙って応援し続ける。間違っても、下手な指示を下すのだけは避けなければならない。
部下が、自分で考え、自分で責任を持ち、自分の個性を発揮できる状態をつくることは、”コピー”を生まない方法となる。そういったバラエティに富んだ人たちで構成されるチームこそ、最強になる。
レーダーチャートをイメージしてほしい。コピーによって量産型人材が何人集まっても面積は広がらない。特徴が違う人が重なってこそ、面積は最大化される。強いチームとはまさにレーダーチャートの面積の広さと言ってもいい。
こういうと、必ずこんな意見が出てくる。「理屈は分かるが、それはチームではないのではないか」「自由という名のもと、マネジメントを放棄しているのではないか」
もちろん、手段の自由化は、野放しにすることではない。開放のマネジメント・チームは、ひとつだけ共通の約束事を持つのだ。
それは、ミッションを一致させること。目的だけは統一させる必要がある。また、それ以外にも機能させるポイントがいくつかある。
開放的なマネジメントでチーム・組織を発展させるには、4つのポイントがある。筆者は以下のようなチームを運営してきた。
そして、トライ&エラーを繰り返すなかで学んだことがある。開放のマネジメント・チームビルディングを実行する際のTIPSは次の通り。言い方を変えると、「監視」「管理」「活用」を排除する仕組みづくりとなる。
1. 「いつ、どこで」を無意味に強制しない
間違っても、細かな時間管理をしない。「今日は何時から何時まで何をしていたの?」なんて、上司はいちいち聞いてはいけない。管理することはマネージャーの責任という大義名分のもと、マネジメントをしている風なだけで、メンバーのポジティブな意欲を削いでいるだけだ。チームメンバーのポテンシャルを発揮できない。
2. タスク(手段)ではなく、ミッション(目的)で会話する
だからこそ、タスク(手段)では仕事を握ってはいけない。作業ベースだと、やり方が決まってくる。その人ならではの良さは押し殺される。その人でなければならない理由もなくなると、ロボットのほうが圧倒的に良くなってしまう。
ミッション(目的)だけを握るチームビルディングは、個性の違う人が集まれば集まるほど、さまざまなアイデアが出てくる。上司が想像できなかった方法がみつかる可能性も大きくなる。余談だが、可能なら、目的は下ろすのではなく、チームで議論の上、一緒につくりあげるとなお良い。全員が自分ごと化できるからだ。
3. 目的達成までの時間軸は、短くても半年以上に設定する
ミッションで握り、手段を自由化した上で、実は大事なのが、目標達成までの時間軸だ。短すぎると、手段の自由度は狭まってしまう。少なくとも1年単位で設定するとよい。ただし、そのうえで、マイルストーンを引くのは問題ない。「1年後にここを目指す、そのために半年後はこういう状態になっていよう」など。
なお、数字目標は当然あってもいいが、数字だけではダメ。数字だけだと、組織やチームの存在意義そのものがブレる可能性を秘めてしまう。”状態”を言語化することをオススメしたい。
4. 生産性をあげるために、無駄な空間や時間をつくる
無駄な会話や時間は無駄ではない。チーム内で関係性をつくる方法のひとつだ。発言のしやすさをつくることで、さまざまなアイデアは「思っているだけ」から「アウトプットしてみる」に変わる。挑戦には、安全な空間が不可欠だ。無駄な空間や時間を意図的に作り出すことで、アイデアは共有され、それが発展しやすくなる。ひいては、チームメンバーが失敗を恐れずチャレンジし始める。
5. いざというときのために、上司こそ、できる部下になる
とはいえ、営利企業の場合、何かを止めてでも、足元の事象に向き合わなければならないこともある。例えば、サーバが落ちた、明らかなミスで顧客に迷惑をかけた、今月の目標達成が危ない、などなど……。
しかし「いつ、どこで、どのように」を自由化している以上、その瞬間にメンバーが対応できないケースも起こるだろう。そんなときは上司が自ら現場で手を動かす必要もあるのだが、概念しか理解していなかったり、現場に出たら何もできない上司は案外多い。ある有名な映画のセリフがイメージされるように、事件は会議室ではなく、現場で起きているものなのだ。いざというときのために、上司こそ、できる部下になっておくことは「開放」のチームビルディングやマネジメントには不可欠といえる。
これらが揃うと、イキイキとしたチームが生まれる。ありのままの自分がを受け入れられる安全性があり、目的さえズレなければどんな挑戦も許容されるからだ。自分が自分らしく居ていい空間では、誰かが誰からしく居ていいことを承認できる。相互にポジティブスパイラルに入ることで、チームのレーダーチャートの面積は広がり、パフォーマンスが上がっていく。
ここまで全3回にわたり、「これからの組織」「チームの在り方はどうあるべきか」「その背景はなぜなのか」を筆者の視点で解説してきた。
1.「コロナ禍は関係ない」チームという組織の構造改革の必要性--昔の真実は、今のウソ
2.実行力のあるチームの在り方:時間も場所も、人も契約も、社内外の境界線をなくす
3.オンラインチームの作り方--管理はご法度、マネジメントは「解放」の時代へ(今回)
最後にもう1つ付け加えておきたい。チーム・組織を作っているのは、生身の人間である。一人として同じ人間はいない。ある一人だけをみても、やる気に満ちているときもあれば、つらいことがあって集中できないときもある。個性の違う複数人の組み合わせによって、また違う課題が出ることも少なくない。内的だけでなく、外的な要因に影響されることもあるだろう。
つまり「チーム・組織は生き物」だ。一度つくったら完成ということはなく、常にアップデートし続ける必要がある。今回の解説は、ある程度の型として参考にしていただけたら幸いだが、その組織ならではの在り方、やり方を、チーム全員で模索し続けてほしい。
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